社員と語るときは一歩先を照らせ

こんにちは

会社の雰囲気をよくするとか、
社員のやる気を引き出すためには、
経営者が社員と面談することが重要だ、
というお話をよくさせていただきます。

そうすると、
面談しても何を話せばいいのかわからないとか、
自分の考えていることを語っても、
いま一つ手応えを感じない、
という悩みを経営者の方から聞くことがあります。

そういう時に、一つの指針なるものとして
お勧めしたい言葉があります。

本田技研工業、いわゆるホンダの
草創期から副社長として会社を支えた
藤沢武夫さんの言葉で、

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経営者とは、一歩先を照らし、
二歩先を語り、三歩先を見つめる
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というものです。

3年先、5年先を読んで、
計画を立てて実行することや、
10年先、20年先を見据えて、
会社の基盤を整えていくことが
経営者の重要な仕事であることは間違いありません。

さらに優秀な経営者であれば、
自分が引退した後も会社が存続していけるように
数十年先や100年先を考えている人もいます。

だからつい、社員に語るときも、
「10年後の会社はこうなっていくんだ、
だからお前もそれに向けて頑張れよ」
というような、経営者目線の話になりがちです。

ところが、現場で働いている人たちは、
10年先の話をされてもピンとこないんですね。

現場では毎日いろんな問題が発生しています。
経営者の目線で見れば、取るに足らないような、
現場レベルで解決できる問題に見えるので、
そこにはなかなか目が向きません。

でも、現場の人たちにとっては、
「明日のあの仕事どうしよう」とか、
「来週のプレゼンの準備が進んでない」とか、
そういう日々の仕事の問題のほうが、
5年先、10年先の計画よりも
ずっと気になることなんです。

だから、現場の人たちと話をするときは、
まず、今の話を聞くことが大事なんです。
現場で今日起きている問題に耳を傾ける。

もちろん、経営者が現場レベルの
小さな問題に解決策を示すべきだ、
という話ではありません。
現場でどんな問題が起きていて、
それを社員がどうやって解決しているのかを
知ることが重要なんだ、という話なんです。

「そんな問題があって、そうやって解決したのか。
いい解決策じゃないか」
と社長が認めてあげるだけで、
現場の社員のストレスというのは、
大きく改善されるものなんですね。

そして、現場の問題に耳を傾けているうちに、
何か改善すべきことが見えてくることもあります。
そういうときは、現場の人たちに
「こんな制度を導入したら、現場の仕事が
うまく回るようになるんじゃないか?」
と直接聞いてみればいいわけです。

そういう関係を社員と築いていけば、
今度は現場の社員たちから、
改善の提案が出て来るように
なるかもしれません。

これが、「一歩先を照らす」
ということだと思うんですね。

経営者が現場の今日のこと、明日のこと、
来週のことにちゃんと目を向けてくれている。
そう感じることで、社員たちは
目の前の不安が軽減される。
そうなって初めて、数年先のことを
考える余裕が出て来るわけです。

だからまずは「一歩先を照らす」。
それができたら「二歩先を語る」わけです。

数年後の会社の計画を社員に語って、
現場目線からの問題点なども挙げてもらって、
会社の将来を一緒に考えていく。

その計画が何十年先の会社のビジョンに
絡んでくるならば、そこで初めて、
経営者が見据えている遠い未来の話を
ちらっと聞かせればいいわけです。

ああ、この会社の社長は、
何十年先まで見据えているんだな、
ということが現場の人たちに伝わるぐらいに
話をすれば十分だと思います。

それが、「三歩先を見つめる」
ということだと思います。

経営改善をするときのアドバイスで、
ベビーステップとか、スモールゴールと言います。
目の前のほんの小さなことから改善してみる。
その積み重ねが大きな改革につながっていくと。
だから、経営者も同じだと思うんです。

何十年先を見つめることは大事だけど、
経営の改革は一歩ずつしかすることができません。
一歩先を照らし、二歩先を語ることをしなければ、
三歩先のことは見えてこない。

現場の人たちの一歩先を照らすことが、
経営の一歩先を照らすことにもつながっている。

経営者になると、つい肩ひじを張って、
経営者目線で考えなきゃいけないと思いがちですが、
大事なことは一歩先にあるわけです。
そこを照らして、現場目線で見ることで、
将来につながる改善案が見えてくる。

だから、経営者になったら、
もう一度、自分が現場にいた頃を思い出して、
サラリーマン時代に戻ったつもりで
現場目線で会社を見つめ直して見てください。

そうすれば、社員たちとの距離も変わるし、
経営の見方も現場感のあるものに
変わっていくのではないかと思います。

岡田有史