ミシュラン寿司か、すしざんまいか
こんにちは
経営者マーケティング研究所
代表の岡田有史(ゆうじ)です。
コンサルティングをするときに、
まず、前提条件として考えることに、
その会社の方向性をどうするか
経営者の方はどこを目指していくのか、
ということがあります。
経営の方向性というのは、例えば、
会社をとある寿司店に例えてみると、
ミシュランで星を取るような、
富裕層向けの超高級寿司店を目指していくのか、
それとも、すしざんまいのような
チェーンの大人気店を目指していくのか
というふうに考えてみると
わかりやすいかと思います。
これから新しく会社を立ち上げようという人なら、
大多数の人がすしざんまい型のチェーン店を目指すと思います。
会社を立ち上げようというときに、
まず、高級寿司店に弟子入りして、
10年も20年も修行してから独立して、
ということは普通は考えませんから。
でも、若い時からその業界でいろんな経験を積んできて、
独立して開業して、経営者としてもある程度の実績がある人だと、
そこはすごく迷いが出る部分になります。
いまは経営者になっていたとしても、
もともとは職人だったり、技術者だったり、
品質の高さを売りにしている会社で
経験を積んでから独立したような人には、
やっぱりプライドがあるわけです。
長年培ってきた技術を売りにしたいんだとか、
自分自身は業界でトップクラスの技術を持っていて、
そのレベルを落としたくないんだとか。
そういう自負を持っている。
かくいう私、岡田自身も、
経営コンサルティングの技術に関しては、
やっぱり業界トップのものを持っている、
という自負があります。
そういう自負とかプライドを持っている人が、
会社をもっと成長させたいと思った時に、
悩むわけです。
寿司店でいえば、若い時に名店で修行をして、
そこではトップクラスの技術を持つに至って、
独立して開業していままでやってきた。
寿司を握る技術には絶対の自信がある。
でも、寿司を握る技術だけでは、
店舗経営がうまくいくとは限らないわけです。
店の立地だったり、コンセプトとか、
従業員の質とか、メニューの充実度とか、
あるいは富裕層の人脈を持っているかとか。
ミシュランで星を取って、
富裕層の御用達の店になるためには、
いろんな要素が必要になってくる。
それがうまくいかないから、
いま業績が伸び悩んでいるのだとして、
では、今後どうしていくのか。
あくまでも超高級店路線を目指していくのか、
寿司店をビジネスと見て、
すしざんまいのようなチェーン店を
目指す方向に切り替えるのか。
寿司店を会社経営として考えるなら、
やっぱりチェーン店型を目指すべきなんですね。
高級寿司店は個人の名声でやるものであって、
ビジネスの世界とはちょっと趣が違いますから。
でも、技術や経験が豊富にあって、
プライドの高い人だと、
なかなかビジネスに徹しきれないわけです。
寿司店をチェーン展開するなら、
たくさんの職人が必要になります。
その職人に対して、名店で10年、20年修行した
自分と同じ技術を求めてしまう。
完全に同じ技術ではないまでも、
せめて自分の2分の1とか、3分の1ぐらいの
技術は教え込みたいと考えてしまう。
でもそのためには、少なくとも
数年単位の修業が必要になってきます。
それではチェーン展開は難しいわけです。
ビジネスとして考えるなら、
自分の10分の1とか、それ以下でもいいから、
寿司を握るための最低限の技術を
覚えさせた職人を短期間で育成できなければ
いけないわけです。
数ヵ月とか、なんなら数日で板場に立てるぐらいの
ことをしなければチェーン展開は難しいでしょう。
もちろん、すしざんまいの職人さんが数日しか
修行していないという意味ではありませんが、
少なくとも数年単位の修行をするまで
寿司を握れない、ということはないはずです。
要は、10分の1の技術の寿司を出す店を
チェーン展開するんだ、という覚悟を
ちゃんと持てるかどうかなんです。
そして、いままで一緒に寿司屋を
やってきた従業員がいるなら、
その人たちも同じ覚悟を持てるのかどうか。
みんなが同じ覚悟を持っていなければ
足並みが揃いません。
未経験歓迎と書いて職人を募集して、
軽い気持ちでやってきた若者を、
指導役の職人が名店の感覚で指導して
早々に辞めさせてしまったりとか。
そういうことが起きるわけです。
だから、すしざんまい型の寿司店を目指すなら
最初にしっかりとすべての従業員と
話し合っておかないといけないわけです。
会社の方向性を説明して、
頭でわかってもらうだけじゃなくて、
全員が腑に落ちるまで理解してもらう。
正直なところ、そこまでしてもなお、
実際に現場に出ると、昔の感覚で
職人を育てようとしてしまう人が出てきます。
体に染みついた職人の魂というのは
そう簡単に抜けるものではありません。
だから、どうしてもそこを
切り替えられない人とは、
袂を分かつ覚悟も必要になってきます。
だけど、お客さんには美味しい物を出したい、
職人の魂の入った寿司を出したいんだ、
という思いはわかります。
わかりますけど、それを
すべてのお客さんが望んでいるのかどうか。
一流の職人が完璧な手技で握った寿司は
確かに格別に美味しいかもしれません。
でも、一貫1000円、1500円とかでは、
普通の人は食べられません。
だから、ネタは最高のトロなんだけど、
職人は最低限度の技術しかなくて、
その代わりに一貫300円で食べられる。
実際に食べてみれば、それが十分に美味しい。
そういうものを望んでいるお客さんが
たくさんいるはずだ。
そういうふうに、
すしざんまい型の寿司店の価値を
社会的な役割をちゃんと理解して、
そこに全力を尽くせるかどうか。
そこが、成功の分かれ目なんだと思います。
私がコンサルティングをしていて、
凄くやり手だなと思う経営者とか、
業界No.1の方とお会いすることがあります。
そういう方とは、みなさん虚心坦懐で、
ゼロベースで素直に経営について聞いてこられます。
うちの業界は今度どうなると思いますかとか。
そんなことは、私よりも、
長年やられてきた、その社長のほうが
何倍も詳しいに決まっています。
それでも、素直に聞いてこられる。
もちろん、その社長にもプライドや自負が
ないわけじゃない。
むしろ内面では、凄く高いプライドが
あるのだと思います。
でも、プライドを外に出す必要はないわけです。
せっかくコンサルティングを受けるなら、
コンサルタントにいろんなことを
聞いたほうがいいに決まっています。
外の人がどう見ているのかを
知ったほうが絶対に得なわけですから。
だから、変なプライドを出さないで、
常にゼロベースで考える癖がついている。
寿司店も、何が大切なのか、
何を目指すのかをゼロベースで考えると
見え方が違ってきます。
名店だ、名人だと呼ばれる誇りが欲しいのか、
多くの大衆に喜んでもらって、
ビジネスも成功する結果が欲しいのか。
大衆が望んでいるものは、
超一流の職人が名人芸で握る
超高級の寿司なのかどうか。
それをゼロベースで考えてみれば、
自分のプライドやこだわりの中で、
ビジネスに必要ないものが
なんなのかがわかるかもしれません。
もちろん、すべてのプライドやこだわりを
捨てるべきだ、という話ではありません。
何のこだわりもなければ、
人を惹きつけるものを作ることは
できないでしょう。
だけど、ビジネスで考える時には
初めにプライドありきではなくて、
ゼロベースで考えてみる。
その上で、捨てられるものと
決して譲れない部分を分けていく。
そこには、自分の人生の哲学とか、
生きている意味とか、
そういう深いものが絡んできます。
一緒にやっている仲間がいるなら、
その人たちの哲学も絡んでくる。
そういうものを徹底的に話し合って、
全員が腑に落ちて、心の底から納得して、
よし、これなら人生を懸けられる、
というものを見つけることができたなら、
きっとすべてが一瞬でうまくいくように
なるのだと思います。
みなさんも、あらためていま一度、
自分の仕事をゼロベースで見つめ直して、
自分の経営哲学や、人生で培ってきたものと
重ね合わせてみてください。
きっと、新しい経営の指針が
見えて来るのではないかと思います。
岡田有史