「モスキート作戦」のススメ
こんにちは
経営者マーケティング研究所
代表の岡田有史(ゆうじ)です。
弊社、銀座経営者倶楽部でご講演いただいた、
アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)の
オーナー社長・丸山雄平さんのお話の第2回目です。
丸山さんは、一度会社を倒産させ、自己破産したにも関わらず、
その後再起を図りASJを上場させました。
ASJは住宅を建設する際に、
設計をする建築家と施工をする工務店、
そして発注をするクライアント、
この三者をつなぐ役割を担っている会社です。
これまで、個人が住宅を建てるときは、
大手の住宅販売会社に注文することが普通で、
建築家に設計を依頼することは稀でしたし、
現実的に個人と建築家のつながりがなく、
発注したくても難しかったという実情があります。
そこでASJでは全国の工務店をネットワークに登録し、
建築家とつなぐことで、個人の方がスムーズに
建築家の設計による住宅を建てられるような
サービスを提供しています。
ここで特徴的なことは、ASJでは住宅を注文する
お客様からお金をもらっているわけではない
ということが挙げられます。
例えば5000万円の住宅を建てるとして、
ASJが仲介費として10%とか5%を取っていたら、
発注者にとっては、建築家や工務店を紹介してもらうだけで
500万とか250万ぐらいの費用を払うのは
ちょっと高いなと思ってしまいます。
建築家を使うのは諦めて、住宅販売会社に
注文してしまうかもしれません。
では、ASJの事業がどう成り立っているかといいますと、
紹介した工務店や建築家のほうから、費用をもらっています。
工務店からは建築費の3%をもらう。
建築家は建築費の10%を報酬としてもらいますが、
ASJはその10%の10%、つまり建築費の1%をもらう。
併せると建築費の4%が入って来るわけです。
そして、それとは別に工務店からは、
ASJへの登録費として、創業当初は毎月5万円、
現在は毎月10万円をもらっているといいます。
その他にも、工務店のイベント企画料とか、
ASJ登録工務店としての名刺を作ったりとか、
そういう細かい部分で利益をあげています。
これを丸山さんはモスキート作戦と言っています。
モスキートは蚊のことですね。
蚊は人間の血をちょっとずつ吸って生きています。
血を吸われた人間はかゆくはなるけれど、
実害はほとんどありません。
細かく、ちょっとずつお金をもらうことで、
中小零細企業の工務店や、個人事業主の建築士の
負担にならないように売上をあげているわけです。
ただ、この事業モデルは、工務店のほうに
毎月10万円払うだけの価値を提供しないと成り立ちません。
ASJが工務店に提供する価値とは何でしょうか。
これは、全国の工務店というのは、
ほとんどが小規模の零細企業です。
一方でASJは東証マザーズに上場する企業です。
工務店がお客様を獲得できるかどうかというときに、
上場企業のASJに選ばれた工務店なんだ、
ということが大きな武器になるわけです。
そしてもちろん、上場企業のネットワークで
優秀な建築士が設計します、ということも
大きな武器になります。
これまで地元の工務店には目を向けず、
大手の住宅販売会社に注文していた
ブランド志向の発注者も、
上場企業のASJのブランドイメージがあれば、
地元の工務店に発注してくれる可能性が
ぐっと広がるわけですね。
さらに、ブランド志向の発注者は富裕層に多いため、
5000万円を超えるような高額物件が主流になります。
工務店としては、売上を大きくアップする
チャンスにつながるわけで、毎月10万円払って
ASJに登録する価値が出て来るわけです。
丸山さんは、ASJで成功する以前にも
同じようなコンセプトの事業を手がけましたが、
そのときは、自分自身で建築を受注して、
建築家と工務店を使って家を建てる、
というビジネスモデルだったそうです。
そのほうがはるかに大きな売上になりますが、
建築費が想定以上になった大きな赤字が出るなど
トラブルが多かったために事業が続かなかったといいます。
現在のASJのビジネスモデルでは、
営業・受注のところは登録工務店が行っていて、
設計のコンセプトなどの説明は
建築士がイベントを開催して説明しています。
ASJはあくまでも、建築士と工務店と
お客様とをつなぐ役割に徹しているわけです。
そして、モスキート作戦で工務店と建築士から
少しずつ売上をあげることで、
安定した経営を実現しています。
ニーズのあるところに入り込みつつも、
既存の業界のビジネスモデルを破壊しない程度に
少しずつ売上をあげるビジネスモデルを組み立てる。
これがモスキート作戦の秘訣です。
みなさんも是非、参考にしてみてください。
岡田有史