超自分主義のススメ

こんにちは

経営者マーケティング研究所
代表の岡田有史(ゆうじ)です。

みなさんは、
「マーケットイン/プロダクトアウト」
という経営用語を知っていますか?

普段からマーケティングを意識して
経営に取り組んでいる方にとっては、
当たり前のに知っている用語だと思います。

ただ、成功した企業の優れた経営者でも、
こうした用語は実はあまり知らないんだ、
という方も意外に多いものです。

しかし、そういうタイプの方に
経営哲学とか成功の秘訣などを聞いてみると、
実は、経営用語になっているような、
メジャーな経営概念を用いていたりします。
つまり、用語は知らなくても、
長年、経営に取り組んでいるうちに、
自分自身の力で、経営の実践の中から、
経営に必要な概念を見出して、
身に着けていたということなんですね。

だから、経営用語や概念を知らなくても
まったく問題はないのですが、
ある経営用語の成り立ちや歴史を知ることで、
いろいろと参考になることもありますので、
今回は用語の意味から説明して、
さらにその成り立ちなどを紹介しつつ、
経営に生かす方法を考えてみたいと思います。

マーケットイン/プロダクトアウトという概念は、
1980年代頃に日本で提唱されたもので、
90年代から2000年代初頭にかけて、
日本では非常に重要な経営概念であるとして
もてはやされていました。

ちょうどその頃は、日本の様々な製品が
非常に良質であると世界に認知されて、
メイド・イン・ジャパンがブランド化して、
世界中で売れに売れた時期と一致しています。

この用語の意味として、
まず、マーケットインというのは、
消費者や顧客のニーズを調査し、
そのニーズに合致する製品やサービスを
開発することを言います。

もう一方のプロダクトアウトとは、
マーケットインに対比する用語として
用いられていたものでした。
顧客のニーズを重視せず、企業側の都合を優先して
製品やサービスを開発・提供する旧来の手法として、
一言でいえば、時代に遅れている経営手法
という意味で使われていた用語です。

具体的な例でいいますと、
うちの会社は○○技術が得意だから、
既存の製品に、その技術を生かした機能を
付加した商品を作って売ってやろうと。
当然、新たな機能を付けた分、価格は高くなりますが、
付加価値のある機能を付けたんだから、
高くても売れるだろうし、売らなきゃダメなんだと。
こういう考え方がプロダクトアウトとされました。

これに対して、ニーズの調査をして、
消費者は追加機能を求めていないことが分かったと。
いくらその技術を得意にしていても、
消費者が求めていない機能を付けて、
価格も高くなっては売れるはずがないじゃないかと。
だったら、自社の得意な技術などは無視してでも、
消費者が求めているシンプルで使いやすくて安価な商品を
作って売ろう、という考え方がマーケットインです。

元来、日本人は職人仕事のような、
丁寧で質の高い作業を得意にしていますから、
すでに世に出ている商品を、より使いやすく改良したり、
質を上げて故障しにくくしたり、
製造工程の無駄を省いて低価格化したりすることは、
大の得意にしています。

ですから、マーケットインの考え方は、
日本企業の体質と非常にマッチしました。
その結果、生み出された高品質・低価格の製品は、
世界中の消費者の心をとらえて、
売れに売れたわけです。

特に90年代から2000年代の日本においては、
マーケットインこそが絶対的な正義で、
プロダクトアウトは悪い経営の見本だ、
というような風潮がありました。

ところが、2000年代の後半に入り、
ITなどの新たな技術革新が起こり始めると
状況が変わり始めます。

日本の企業は時代の変革についていけず、
米国を代表するIT企業の
GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)
のような新しい技術を開発した企業に
まったく、たちうちできなかったのです。

なぜ、日本企業はついていけなかったのでしょうか。
消費者のニーズを調査するマーケットインの手法では、
消費者が知らない未知の技術を使った
製品やサービスのニーズというものは、
まず出てくることはありません。

消費者というのは、
いま自分の周りにある製品に対して、
もっとこうして欲しい、ああして欲しい、
という要望を挙げることはできても、
世に出回っていない技術を欲することがないからです。
知らないことは求めようがない、ということですね。

だから、マーケットイン至上主義で、
消費者のニーズに応えることこそが重要なんだ、
という考えになっていた日本の企業には、
ITを使った、新しいサービスを創出することが
できなかったのです。

消費者のニーズに応えるのではなく、
新しい技術を追求し、その結果として、
従来にない、まったく新しい製品やサービスを開発し、
その価値を消費者に理解させて売るという手法は、
日本の多くの企業がこれまで否定し続けてきた、
プロダクトアウトの考え方に近い物だといえるでしょう。

元々はマーケットインという手法に対して、
悪い経営手法の例としてプロダクトアウトという
言葉が作られたわけですが、
ここにきて、プロダクトアウトが
俄然脚光を浴びることになったわけです。

また、消費者のニーズに応えることを主眼にする
マーケットインの手法では、基本的に顧客の奪い合いになります。
限られた市場で、製品の質や価格面で競争することになる。

そして、製品の質に対する消費者のニーズというのは、
ある一定のところで打ち止めになります。
もう、それ以上の機能や質は必要ないよ、
という段階に達すると、
残る消費者のニーズは価格面だけということになり、
最後は安売り合戦になっていくわけです。

マーケットインの手法に依存した企業体質は、
こうした理由により終わりを告げました。

では、マーケットインという経営概念が
まったく不要になったのかといえば、
決してそうではありません。

プロダクトアウトの手法で、
これまでの概念を一変させるような、
製品やサービスが生み出されて世に出回れば、
そこには必ず消費者のニーズが生まれます。

こんな機能があったら便利だ、この機能はいらない、
値段が高すぎる、もっと高くてもいいから機能を増やしてくれ等々。
これまでにない、新しい製品やサービスだからこそ、
消費者のニーズも数多く生まれるわけです。
そうしたニーズに応えるには、マーケットインの手法が
必ず必要になってきますし、ニーズに応えられなければ、
後発の企業に追い抜かれてしまいます。

ですから、マーケットインの考え方が
全面的に間違っているとか、いまの時代には不要だ
というわけではありません。

=========================
超顧客主義のような、顧客のことしか見ていない、
顧客にニーズに合わせることだけを考えているような
企業になってしまうのは危険だということなんです。
=========================

技術や概念を追求し、消費者にまったく新しい価値や
ライフスタイルなどをもたらすんだ、という気構え。
創造力を企業は忘れてはいけないのだと思います。
同時に、世に出した製品やサービスについては、
顧客のニーズを分析し、より消費者が求める形に改良し、
進化を続けることも必要です。

結局のところ、マーケットイン/プロダクトアウトとは、
どちからが善でどちらかが悪という二元論でなく、
両方ともが大事で、必要なことなんだと思います。

ただ、一般的な日本の企業体質では、
マーケットインはもうできているところが多いけれども、
プロダクトアウトは苦手にしていることが多いと思います。

悪い意味でのプロダクトアウトではなくて、
消費者にまったく新しい価値をもたらすような、
圧倒的に優れたプロダクトアウト。
なにもないところにニーズを生み出していくような
圧倒的な創造力が不足していることが多い。

そこを打破していくためには、
何か思いきった発想の転換が必要になってきます。

超顧客主義の真逆をいく、超自分主義のような発想。
お客様がどう思っているか、という考えを一切捨てて、
自分が何を作りたいか、何だったら人生を懸けて、
魂を込めて作ることができるのかを考えてみるとか。

みなさんも、普段はどうしても、
目の前にある商品がどうやったら売れるのか
ということばかりに考えが向いてしまうと思いますが、
時には、そうした日々の考えを忘れてみてください。

そして、超自分主義、超わがまま主義になって、
自分の強みを100%生かすような商品を作り出して、
それで勝負を懸ける、世界に打って出る、
そんなことを考えてみるのも面白のではないのでしょうか。

岡田有史